サーカスアーティストをしながら、サーカスのことをマニアックな目で愛でるYasuの「ちょっとサーカスなお話」第7回は「専用と専用じゃない劇場ショー」
なお話しです。
ラスベガスには、世界各国からたくさんのジャンルのショーが集まってきます。その中で、サーカスエンターテイメントショーだけでも、かなりの数があるんです。そして、それらの多くがカジノホテルと共同で専用劇場を持っています。Cirque du Soleil (以下シルクと呼びます)のショー「O」「KA」「Mistere」「LOVE」「Michael Jackson ONE」「Mad Apple」、Spiegelworld 「Absinthe」「Opium」「Atomic Saloon」、シーザースエンターテイメント「WOW」「Extravaganza」。この他にもAGT Liveなどもあるし、専用劇場を持つマジックショーも入れたらすごい数になります。
そして、上記のような専用劇場を持ったショーの他に、Strat Hotelで、4月から始まったトップレスのサーカスエンターテイメントショー「Rouge」、それからYasuの出演する「V Ultimate Variety Show(V SHOW)」など、時間帯によって別のショーをする、専用劇場“じゃない”ショーもたくさんあります。
今日は、これらの専用劇場ショーと専用劇場“じゃない”ショーの違いを劇場運営の目線でお話ししていきますね。そんなマニアックな話、なんの役に立つねん!って思うかも?でもこれを知っていると、ショーを観にいった時の楽しみ方がちょっと変わります!
専用劇場
まず、専用劇場型のショーですが、専用だけあって、ものすごい制作費をかけて劇場から作っています。そのため、劇場全体がそのままエンタメになっているんです。ショーが始まる前からワクワクを演出しているんです。劇場入り口から中に入る通路にいたっても、それぞれのショーのコンセプトに合わせたそれぞれに特化したデザインになっています。例えばシルクの「O」は、劇場入り口には、シルクのパフォーマーがモデルになった彫刻が置いてあり(買うこともできるよ!)、まるで美術館に来た時のような気持ちにさせてくれます。そして、劇場内に入ると、ステージを覆うように目の前に大きな真っ赤などん帳が現れる。ショーが始まるとそのどん帳が舞台奥にものすごい勢いで吸い込まれ、巨大な何十メートルの湖のような水槽の舞台が現れたかと思うと、そこが急に陸上の舞台になったり、また急に湖になったりする。「KA」は、劇場に入ると、スチームパンクな?石油コンビナートのような世界が広がり、開演15分くらい前からキャストがたくさん現れて「KA」の世界へと引き込んでいってくれます。ショーが始まる前からワクワクが止まりません。そして、ショーが始まるとスモークの中から大きな何十メートルもある舞台が現れます。そうかと思えば、その舞台が縦になったり横になったり、垂直になったり、斜めになったり…… もうね、舞台のショーの想像を超えるんです。あたかも目の前でライブの映画の中の世界を見ているような体験が広がる!!!どちらのショーも製作費150億円とも160億円とも言われ、回収するのに10年以上を計画して設計されてます。他のシルクのショーも、話し始めると止まらなくなっちゃうので、また今度の機会にお話ししますね!先月ご紹介したシルクの中でも一番小さい劇場の「Mad Apple」でさえ、「Zumanity」の舞台機構ををそのまま使用しているとはいえ、製作費は5億円から10億円って言われています。
そして、今やラスベガスのエンタメの夜の顔となりつつあるSpiegelworldのショー3つも面白いです!コンセプトである「大人の遊び心をくすぐる」ような作りの劇場になっています。ちょっとだけ説明すると「Absinthe」は、一般の入口以外にも、VIPの入り口が電話ボックスになっていて、そこをくぐると劇場内に入れるようになっています。「Opium」は、隠れ家的なレストランや、バーに入っていく感じ。「Atomic Saloon」も迷路のような通路を抜けるとそこには西部劇に出てくるようなバーがあり、さらに客席と一体になった西部劇の世界のような舞台が現れます。
他にもシーザースエンターテイメントの2つのショーも同じように各ホテルと共同出資する形でそれぞれのショーに特化したシアターになっています。(長くなるからまた今度説明することにしますw)とにかく、このように、もう劇場に行くだけでワクワクが始まり、そのショーへと引き込んでいってくれるのです。
専用じゃない劇場
一方、「Rouge」や 「V Variety Show」はというと、専用劇場じゃない。ちょっと違うんです。
「Rouge」は、The STRAT HotelにあるThe Stratシアターという劇場で公演しているのですが、この劇場では、午後2時からと8時から「iLuminate」(真っ暗な中でLEDスーツを着たダンサーたちがDJの音楽に合わせてダンスをするショー)、4時から「Banachek’s Mind Games」(心を読むマジックショー)、6時から「Xavier Mortimer」(コメディーマジックショー)、10時から「Rouge」(トップレスサーカスエンターテイメントショー)と、一つのシアターで1日に5つのショーが行われています。
そしてYasuの出演している「V Variety Show」のあるVシアターという劇場では、
午後2時半から「ポポビッチ」 (3月のコラムでご紹介したコメディペットサーカス)、4時から「Nathan Burton」 (アメリカのテレビ番組から有名になったコメディマジックショー)、5時半から「Hitzville」 (モータウンミュージックライブショー)、7時からと8時半から「V SHOW」、10時から 「Mark Savard](コメディー催眠術ショー:現在休演中)の、5つの全く違ったジャンルのショーが一つのシアターで行われているんです。公演と公演の間わずか15分ほど…… 舞台転換もこの15分のうちに終えなければいけないため、それぞれのショーの舞台装置も専用シアターのように、そのショーに合わせて作り込むことはありません。そして、シアターのバックステージには所狭しと各ショーの大道具が並んでいて、常にてんやわんやしています。ちなみに舞台上でアップ(ウォーミングアップ)ができるのは、劇場が開く午前中11時からお昼の1時まで……(もはやアップと呼べない)それ以外の時間はほぼずーっと何かしらの準備やショーが行われています。
このように、実はラスベガスの劇場には、専用劇場と“じゃない”劇場がたくさんあるんです。ほとんどの専用劇場タイプのショーは、1日あたり夕方6時くらいから2回ショーが行われます。昼間はリハーサルをしたりメンテナンスをしたり、1週間で2日から1日の休演日があります。
ということは、専用劇場での公演回数、つまりチケット収益の機会は、1日2回、週およそ10回から12回です。それに比べて、専用“じゃない”劇場の公演回数は、1日5回から6回、劇場自体の休演日はないところが多いので、1週間フル稼働でおよそ30回から40回あるんです。
そうすると、劇場の維持費と客席1つあたりのコストの割合を下げることができるため、“じゃない”劇場は、ショーチケットの値段を安くすることができるんです。しかし、バックステージにたくさんの他のショーの大道具を置く必要があるし、ショーとショーの間が短いので、それぞれのショーの世界観を作ることができず、専用劇場より一つ一つのショーの全体としてのクオリティは下がってしまう傾向にあります。
制作費を莫大に使い劇場から全て世界観を作り、最高のショーを作り上げていく専用劇場。一つ一つのショーのコストを下げて、劇場稼働率を上げる専用“じゃない”劇場。それぞれのショーには、それぞれの戦略があります。コストを下げることで、リスクも軽減するため、“じゃない”劇場では、前衛的な挑戦をすることもできるため、年間を通して入れ替わりも激しいです。
今度ラスベガスでショーを観にいくときは、その劇場が専用劇場なのか?それとも専用“じゃない”劇場なのか?そこに注目してショーを堪能するのも面白いかもしれません。
どちらにもそれぞれの楽しみ方があり、新しい発見があります。“じゃない”劇場のショーを観たいなぁって思われたら、Instagram、ツイッター、FacebookなどからYasuにご連絡くださいね!マニアックなショーや、個人的なショーなどもご紹介いたします。それではまた来月お会いしましょう。
by Yasu Yoshikawa
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