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第二回 サーカスと動物

By Yasu Yoshikawa

サーカスアーティストをしながら、サーカスのことをマニアックな目で愛でているYasu の「ちょっとサーカスなお話」第二回目は「サーカスと動物」についてです。


目を瞑ってサーカステントに先月に続いて入ってみてください。(またかよ!)ライオンが吠えながら火の輪をくぐってます。他の猛獣が鞭で打たれながら猛獣使いの言うことを聞いています。他にも、ゾウの逆立ち、熊の玉乗り、高いところから小ゾウが飛び降りて、大きな耳で飛んできました。その横には鼻が伸びる木の人形がロバに変わって……とにかく、野生動物が出てくるイメージが強いと思います。


しかし、今日では、世界各国で野生動物の出演が軒並み禁止され始めています。アメリカでも禁止になったため、The GreatestShowman でお馴染みの老舗のRingling Bros.and Barnum & Bailey Circus も2017 年に野生動物の出演禁止など経営不審を理由に閉幕しました…… このように、野生動物を劣悪な環境で飼育し、見せ物のように扱うことは時代遅れのように批判的に捉えられるようになりました。そもそもなぜ野生動物をサーカスに取り入れていたのかを、歴史的背景を考えながら見ていくと面白いことが分かってきました。


20世紀初頭、野生動物はサーカスでは目玉として取り扱われてきました。その当時、娯楽というものがあまりなく、サーカスを見た人々は、


村人A「ほらあれ!異国の地の動物でライオンっていうらしいで!噛みつかれたらやばいで!」

村人B「そんな猛獣をあのムチ持った猛獣使いが操ってるで!!」

村人C「キリンが好きや!でもゾウさんの方がもっと好きや!」


みんなサーカスに度肝を抜かれて子どもも大人も大興奮!!見知らぬ世界に導いてくれるサーカスはその当時の人にとって最高のエンタメでした。しかし、時代は流れ、映画、テレビが普及し始めると、サーカスが唯一のエンタメではなくなっていきます。おまけに野生動物を飼育する多大なコストもサーカス興行主にとって重石となっていきました。


そんな時にフランスで登場したのが『ヌーヴォーシルク』です。聞き馴染みのない人も多いと思いますので、ちょっと説明すると、「ヌーヴォー」はボジョレーヌーボー(ボジョレー地区でその年に採れたぶどうの最新ワイン)と同じ意味で「新しい」という意味。そして、「シルク」は、サーカスのフランス語。つまり、『ヌーヴォーシルク』はフランス語で『新しいサーカス』という意味で、若い芸術家を中心に、演劇や音楽やダンス、ファッションや美術を積極的に取り入れ、野生動物を使わず、主に人間の身体能力を活かしたアートサーカスのことを意味します。


このムーブメントを、フランス政府が積極的に支援して『ヌーヴォーシルク』は確立されていきます。1970 年代は伝統サーカスとヌーボーシルク系サーカスとの群雄割拠の時代となり、200 以上のヌーヴォーシルク系の学校が生まれては消えていきました。余談ですが、そんなヌーヴォーシルクの血を引く巨大カンパニーがカナダのケベック州で生まれました。それがみなさんお馴染みのCirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)。現在ラスベガスにもレジデントショーが5つあります。「シルクは動物を一切使わない」をモットーにして、『シルク』という言葉のブランディングにも成功し、新しいサーカス芸術を生み出し、それを確立して今日に至ります。


一方、伝統サーカスでは、スマホが普及した今日の情報化社会において野生動物を見せ物として扱うことが、むしろマイナスに働くようになって拡散されていきます。ついには野生保護団体によるデモによって、国自体が野生動物の出演の禁止を進め、たくさんの伝統的なサーカス団が衰退していきました。


そんな中で一人の男が立ち上がります!ドイツのサーカスロンカリの創始者ベルンハルト・ポール!


ベルンハルト「これはもう野生動物に代わる野生動物を作らなあかん!!!」

彼は30 年もの間、総額50 万ドル以上の個人資金を費やし、研究に研究を重ねて、ついに2018 年4 月にサーカスの舞台に円形のスクリーンを張り巡らせて、11 台のプロジェクタを駆使し、巨大な3D ホログラムの立体動物を生み出しました。サーカスの原点である馬が光の粉を放ちながら走り回ったかと思ったら、ゾウが逆立ちしする!!!テクノロジーによる野生動物が躍動し、観客を驚かせました。彼はそれだけでは収まりません。


ベルンハルト「ロボは漢のロマンや!!猛獣ロボを発明するで!!!」と言ったか言わなかったかわかりませんが、その年の大晦日にロボを発表します。5mくらいの巨大なロボットアームに3mくらいの棒を握らせたもので、あたかも騎士が剣を自由自在に操るかように動きます。そしてそのロボアームに握られた棒を人が鉄棒のように使ったり上り棒のように使ったりするのです。それはまさに未来の猛獣とそれを操る猛獣使いのようで、伝統サーカスの血を引くサーカスロンカリが、ヌーヴォーシルクとは違った考えで未来の猛獣を誕生させたのでした。


このように、現在のサーカスの世界では、同じ「動物は使わない」というアプローチですが、人馬一体となる伝統サーカスと、身体的表現に重きを置いたヌーヴォーシルクで、全く違った進化を遂げていっています。


CES でも話題になる進化したSONY のペット型ロボットのaibo や、Boston Dynamics のダンスやバク宙までできるロボなど、現在ロボテックの進化が激しく、やばいくらい面白いのです!それらテクノロジーを取り入れて、今後どのようなサーカスが誕生していくのか?? 実は今、サーカス業界からめっちゃくちゃ目が離せなくなってきています!!興味のある方は、「Holographic Animals」「UliK Robotik Robopole」で調べてみてくださいね!

それではまた来月お会いしましょう。


Yasu Yoshikawa

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